令和7年度
R7.9 新米の時期を迎えて
黄金色に染まった稲穂が広がり、稲の香りが漂ってくると何故か心が和みます。今年も猛暑が続きましたので、米の出来高が悪く、再び米不足とならないか気になるところです。
日本人の命の糧である米の安定供給は国の最大の責務です。国はこれまで、戦中戦後の食糧難においては農地を造成し、食糧増産に努めました。秋田県八郎潟の干拓はそのモデルとして喧伝されました。また、食糧管理制度に基づき、米や麦などの価格や供給は国が統制していました。
しかし、日本人の食生活が豊かになってくると米が過剰となり、1970年にはこれまでの食糧増産から生産調整へと大きく舵を切りました。こうした国の真逆な政策転換に翻弄された八郎潟の入植農家の苦悩を描いたドキュメント番組を見て「何故、国はこんな理不尽なことをするのだろう」と当時、思ったものでした。
その後、国の「猫の目行政」は、2018年の減反廃止につながり、今度は国に替わり、農家自らが生産量を決め、市場で販売する自己責任を求められることになりました。市場の動きに疎く、販売経験もない農家が急に〝自己責任〟と言われても対応できるはずはありません。
このような国の方針に警鐘を鳴らしたのが佐賀県の農民作家、故・山下惣一氏です。彼は「米の供給が市場取り引きを前堤として行われる限り、農家は過当競争に巻き込まれ、結局、農民や農村は疲弊する」と主張しました。
令和の米騒動は、猛暑による米の出来高不足が主な要因ですが、一方で減反政策で米の生産を減らし過ぎたことや低価格競争にさらされたこと、さらには資材や肥料などのコスト高によって農家が米の生産から撤退するといった構造上の問題があります。加えて、国が正確な生産数量や需給量の見通しを誤ったことも問題視されています。
このたわわに実った稲穂の風景を後世に引き継いでいくためには、国は、規模拡大による効率化や市場での価格競争一辺倒の政策だけではなく、食料安全保障の観点から、地域社会の中で自然と共生しながら、安心して米づくりに励めるよう、生産現場にもっと光を当てるべきです。
農家においても、おいしい米を安定的に生産するため、スマート農業を導入し、効率化や省力化による経営努力が求められますし、一方消費者においても、農家が米づくりができなくなれば、令和の米騒動以上の混乱を招くことを認識する必要があります。
「農なくして国が成り立たつか」これは山下氏の遺言です。
柴田町長 滝口 茂
R7.8 若者の海外旅行離れ
近年、若者の海外旅行が減ってきています。私たちの若い頃は高度経済成長期で暮らしも良くなり、また海外旅行が自由化されたこともあって、多くの若者が団体ツアーに参加したり、大学の卒業旅行や農業研修などに出かけたものでした。それだけに若者の海外離れに驚いているところです。
その理由に、言葉の壁や手続きが面倒くさいこと、さらにSNSの時代になり、わざわざ海外に行かなくてもバーチャルの世界で外国体験ができるようになったことが挙げられています。
私も何度か海外に出かけましたが、確かに外国に行くとなると、パスポートの取得手続きが面倒だったり、“外国の食事は口に合うか”、“体調を崩したらどうしよう”、“スリや置き引きに合わないか”、といった心配や不安で一杯でした。
しかし、飛行機から降り、入国手続きを済ませれば、行く前に抱いていた不安はどこへやら、これまでに見たことのない美しい異国の街並みに感動したり、思っていた以上に料理がおいしかったり、人々の暮らしに触れたりと、興奮するばかりです。さらに、現地の人々と交流ができたなら、旅の思い出も、もっと楽しく印象深いものになっていただろうと思っています。
さて、ここにきて、日本人の海外旅行が伸び悩む反面、コロナ禍後のインバウンド客は急速に回復してきています。今年のしばた桜まつりには、観光バス268台中118台が外国人専用ツアーバスとなりましたし、三世代家族の個人旅行も相当増えました。
しかし、こうした海外からのお客様にとっては、船岡城址公園は単なる通過型観光地となっておりますので、今後いかに柴田町との関係性をつむいでいけるかが町としての大きな課題となっています。
そこで今回、船岡城址公園としばたの郷土館エリアをリノベーションし、新たな交流拠点として整備することにしました。特に外国人との交流機会を増やすために、お茶や着付けなどの日本の伝統文化を体験できるイベントの実施や、安心して船岡城址公園の花巡りができるよう外国語での案内標識の設置、英語での観光ボランティアによるおもてなしなどを通して、柴田町での旅の思い出をより印象深いものにしてもらえればと思っています。是非、若い人たちには、こうした海外の人たちと積極的に交流することで、大いに刺激を受け、異なる文化や生活への憧れを膨らませて欲しいと思っています。体力、気力、好奇心旺盛な若い時だからこそ、見知らぬ土地での様々な体験を通して視野を広げ、これからの人生における成長の糧にして欲しいと願っています。
柴田町長 滝口 茂
R7.7 夏バテ防止対策について
今年の夏も厳しい暑さが続くことが予想されています。年を重ねると体調管理が難しくなり、暑さで体調を崩すなどの夏バテになる方が多くなってきます。
夏バテ防止対策として昔から言い伝えられてきた「梅干しを食べれば医者いらず」というおばあちゃんの知恵袋があります。梅干しに含まれるクエン酸に、疲労回復効果や食欲増進効果があり、さらに、塩分によって熱中症予防にも効果があるとされています。私も体がだるく食欲がないときには、梅干しとお茶漬けで元気を取り戻しています。
本来、夏バテ防止の基本は、日頃からの規則正しい生活、バランスのとれた食事、十分な睡眠、さらには、こまめな水分補給を行うことだそうです。しかし、日頃こうした健康づくりを実践している人はどのくらいいるのでしょう。大部分の人は、体に痛みなどの自覚症状が現れてから慌てて、健康を自分のこととしてとらえ、不安にかられる人が圧倒的に多いのではないでしょうか。
町では、健康意識の向上を図るために、健康講話や健康づくりポイント制度、健康診査、食生活の改善に取り組み、町民の健康づくりへのモチベーションの向上に努めています。しかし、なかなかその裾野が広がらないのが現状なのです。
一方で、健康をお金で買おうとする人が増えています。体力の維持にはセサミン、記憶力の低下にはDHAやEPA、肥満対策には青汁がいいといったように、様々なサプリメントがテレビや新聞、通販サイトで宣伝されています。
一時、健康食品、サプリメントの市場は紅麹サプリメントによる健康被害問題で売上が落ちたものの、それでもその規模が1兆600億円余りとなっていることを知って、大変驚いたところです。
こうしたサプリメントを愛用する方々に対して、「これまで町が進めてきた健康づくりの進め方で良いのか」、「さらに新たな視点からの工夫が必要なのではないか」と思ったところです。
改めて猛暑を乗り切るための対策は、人それぞれに異なりますので、サプリメントやドリンクを飲む人がいても良いのですが、私は、おばあちゃんの知恵袋に従って、土用の丑の日に、おいしいうなぎを食べて英気を養い、心身ともに健康で過ごせればと思っています。
柴田町長 滝口 茂
R7.6 二元代表制による地方自治の深化
私は、今回開催される6月会議で、二つの点に注目しています。
一つは4人の新人議員の皆さんと行う、一般質問を通じての論戦です。議員の持ち時間は30分、一問一答方式で行われます。新人議員の皆さんがどのような住民の声なき声を拾い上げ、また、将来の柴田町に対し、どのような考え方を持って質問してくるのか、緊張感とともに、期待感も高まっています。
もう一つの注目点は、40歳の若さで就任した新議長の政治手腕です。多くの先輩議員や新人議員をいかにまとめ、円滑な議会運営ができるか大きな関心が集まるところです。
何故地方自治体に円滑な議会運営が必要なのかというと、議院内閣制をとる国とは異なり、首長も議員も直接住民から選ばれる二元代表制を取っているからにほかなりません。
二元代表制においては、首長は予算編成権と執行権を持ち、議会は質問権と議決権を持っています。お互い議論を戦わせながらも、最終的には町民一人一人の生活の向上と柴田町の発展のために、意見を集約することが制度上求められているからです。
この二元代表制については、うまく機能している自治体もあれば、中には執行部と議会が対立している自治体もあります。最近では首長や議員によるハラスメントや大型プロジェクトの実施や議員同士の確執や勢力争いなどで、住民そっちのけで〝やれ首長に対する不信任案の提出だ〟とか、〝議会の解散〟だとか、混乱する地方議会のケースが報じられています。
その点、柴田町の議会ではこの8年間に柴田高校や各団体とのワールドカフェの実施、PDCAサイクルに基づく政策や事業の評価、全会一致による議会からの執行部に対する提言事項等の提出などの議会改革が行われました。そのため、全国の地方議会から注目され、視察が後を絶ちません。
こうした先進的な取り組みを行っている柴田町議会ですので、新人議員の皆さんには、まずは柴田町独自の議会運営と、それに対する執行部のスタンスについて、是非御理解いただきたいと思っています。
地方は今、人口減少問題や子育て支援、エッセンシャルワーカーの不足や施設の老朽化など、様々な課題を抱えています。
今後とも、新議長の指導力のもとで、〝議会と執行部は車の両輪〟といわれる二元代表制に基づき、お互い切磋琢磨しながら〝民主主義の学校〟といわれる地方自治をさらに深化させてまいりたいと考えています。
柴田町長 滝口 茂
R7.5 新スロープカーの導入
私たちが慣れ親しんできたスロープカーという名称は、普通名詞ではなく、福岡県飯塚市にある(株)嘉穂製作所の登録商標となっています。正式名称は「跨座式モノレール」といい、東京の浜松町から羽田空港へ向かうあのモノレールと同じ取り扱いになります。
今回更新すれば、柴田町においては三世代目のスロープカーとなります。一世代目が昭和45年のNHK大河ドラマ”樅ノ木は残った”が放映されるに当って導入されたリフトカーです。
このリフトカーは一本のワイヤーで車輌を引き上げる方式でしたので、子ども心にワイヤーが切れたらどうなるのだろうと心配したものでした。しかし運行して26年間、事故は一切起きませんでした。
このリフトカーが老朽化したことで、平成8年10月にニ世代目となる現在のスロープカーが導入されました。しかし、その当時にはすでに樅ノ木ブームは終わっていましたので、リフトカーの運行は桜まつりと菊人形まつりに限定せざるを得なくなっていました。
それでは非効率なので、平成26年以降新たにアジサイまつりや曼珠沙華まつり、ファンタジーイルミネーションなどを開催し、運行期間の拡大に努めてきたところです。その結果、年々利用客が増え、年間で約1,100万円の利益を生み出すまでになっています。
さらに、船岡平和観音像と桜のトンネルを行くスロープカーは、タイや台湾など海外の旅行雑誌では、東北エリアの代表的な観光スポットとして紹介されています。そのため昨年の桜まつりには、日本人観光客以上に、数多くの訪日外国人観光客に、柴田町でのお花見を楽しんでいただきました。
観光振興は地域の経済発展に寄与することを基本としながらも、地域の見どころや歴史や文化等の紹介、また地域住民との交流を図る中で、新たな賑わいをつくり出すことも大きな目的の一つとなっています。
新車輌の導入に当たっては、スロープカーそのものに魅力を感じるようなデザインにするとともに、これまで以上にプロモーション活動を展開し、一年を通して観光客を呼び込み、これまでにない賑わいをつくりたいと思っています。